カーボンニュートラルの基礎知識
カーボンニュートラルとは、CO2(二酸化炭素)をはじめとする温室効果ガスの排出量と、森林などによる吸収量を均衡させること、つまり実質的な温室効果ガスの排出量をゼロにすることを意味します。
2020年10月、政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。カーボンニュートラルの達成には、温室効果ガスの排出量を減らすことと、吸収や除去量を増やすことの両面からのアプローチが必要です。
また、2015年に採択されたパリ協定では、温室効果ガス削減に関する世界的な目標に合意がなされました。合意された内容は以下の通りです。
世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保つとともに、
1.5℃以内に抑える努力を追求すること
さらに、すべての国が5年ごとに削減目標を提出・更新することも求められており、同意した約200か国がカーボンニュートラル実現に向けて取り組んでいます。
カーボンニュートラルはなぜ必要?カーボンニュートラルが求められる背景
カーボンニュートラルが必要な理由として、
- 地球温暖化対策
- 技術革新
- 経済成長
などが挙げられます。
世界的に地球温暖化は大きな課題ですが、気候変動による政府間パネル(IPCC)が2021年に発表した第6次評価報告書では、温暖化対策をしない場合2081年から2100年に世界の平均気温が3.3~5.7℃上昇すると予測されています。
地球温暖化が進むと、海面上昇による地域の水没や降水パターンの変化による洪水増加、感染症の拡大が懸念されます。カーボンニュートラルはこうした環境問題の抑制のためにも必要な取り組みです。
カーボンニュートラル実現に伴う技術革新や経済成長も期待されています。環境負荷の小さいエネルギー源や効率的なエネルギー産生技術革新による産業活性化、経済成長が見込まれるためです。
カーボンニュートラルに企業が取り組むメリット
カーボンニュートラルに企業が取り組むメリットには、イメージアップにつながる、投資対象になる、コスト削減になることが挙げられます。
それぞれ詳しく解説します。
競争力の強化
サプライチェーン全体でCO2排出量削減の動きが増えてきている中で、他社より先行してカーボンニュートラルに取り組むことで差別化につながります。新規取引の獲得や取引先との関係強化が期待できます。
コスト削減になる
カーボンニュートラル実現のためにCO2排出量削減に取り組むと、コスト削減になります。生産やオフィスでのエネルギー消費の見直しや、消費エネルギーの低い、いわゆる省エネ機器の導入でエネルギーコストが下げられるためです。
企業のイメージアップと人材確保
カーボンニュートラルへの参画は企業のイメージアップ効果があります。地球温暖化解決が求められる世界情勢の中、温室効果ガス削減に取り組んだり環境に対応した製品を生み出したりする企業の姿勢は消費者だけでなく、サプライヤーや株主にも良い印象を与えるためです。
そのようなイメージアップは結果的に優秀な人材確保や従業員のモチベーション向上へつながります。
投資対象になる
カーボンニュートラルに参画すると投資や融資の面など資金調達面でも有利に働きます。
近年、ESG投資と呼ばれる、「環境や社会に配慮した事業を行っており、適切なガバナンス(企業統治)がなされている会社に投資する」動きが活発なため、カーボンニュートラルに取り組んでいると投資対象になりやすいといえるでしょう。
カーボンニュートラル参画の指標となる国際的イニシアティブを解説
企業がカーボンニュートラルに参画する場合、国際的イニシアティブの認定を受けたり、賛同したりする方法があります。
ここでは代表的な国際的イニシアティブであるTCFD、SBT、RE100、CDPについて説明します。
TCFD
TCFDは、2015年に設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース」のことです。気候変動の取り組みを投資家や金融機関が把握できるよう策定されたガイドラインは「TCFD提言」として公表されています。
TCFDにコミットするには「賛同」と「情報開示」の2つの方法があります。
SBT
SBTは、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことで、パリ協定で策定された2℃目標とも合致するよう定められています。
SBT認定のためには、自社が直接排出する温室効果ガスだけでなく、サプライチェーンの上流・下流といった間接排出も目標設定の対象です。
環境省によると、2024年3月までに日本でSBT認定を受けた企業およびコミット(2年以内のSBT取得企業を宣言)した企業の合計は約1,000社にのぼります。
参考:SBTiの参加日本企業(グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム)
RE100
RE100は、2014年からスタートしたイニシアティブで、事業活動で利用するエネルギーの100%を再生可能エネルギーで賄うことを目標としています。
RE100への参加には、2050年までに再生可能エネルギー100%を達成するための目標設定と、2030年までに60%、2040年までに90%を達成する中間目標の設定に加え年1回の進捗状況が求められます。そのほかのさまざまな要件も参加企業には定められています。
CDP
CDPは気候変動に関する国際環境NGOで、国家や企業、自治体から情報を収集し、その情報を開示する活動をしている組織です。日本では2005年から活動しています。
CDPは情報が豊富であり、環境問題に関心のある投資家から評価基準として支持されているイニシアティブです。

カーボンニュートラルに企業が取り組む方法
カーボンニュートラルに企業が取り組む方法は、温室効果ガスの排出量を削減し、残りの排出量を相殺することによって実現します。企業がカーボンニュートラルを達成するための具体的な方法は以下のようになります。
省エネルギーの推進
カーボンニュートラルに企業が取り組む方法として省エネルギーの推進があります。
具体的にはCO2の排出量の現状把握、事業所内で省エネルギー対策を行う、太陽光パネルを設置するなどです。
再生可能エネルギーへの切り替え
カーボンニュートラルへの企業の取り組み方法として、事業活動に用いるエネルギーを再生可能エネルギーに切り替えることも挙げられます。
ネガティブエミッション
ネガティブエミッションも、カーボンニュートラルの取り組み方法の1つで、大気中の二酸化炭素を回収・除去することを指します。工場などから排出されたCO2を回収し、地中に貯留する方法で実施されています。
カーボンニュートラルにおけるCO2の吸収量を上げるアプローチといえるでしょう。
企業のカーボンニュートラル取り組み事例
日本の企業ではどのようにカーボンニュートラルに取り組んでいるのでしょうか。ここでは、3社の取り組みを紹介します。
大日本印刷
大日本印刷では、事業ポートフォリオの転換や再生可能エネルギーの導入によって、直接的な温室効果ガス排出量削減に取り組んでいます。
また、製品のライフサイクル全体での温室効果ガス削減を目指し、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量も算出しています
参考:Environmental Report 2024(大日本印刷HP)
阪急電鉄
阪急電鉄では、省エネ設備の導入によってカーボンニュートラルに取り組んでいます。具体的には太陽光発電システムの導入や、照明器具のLEDへの変更などです。
また、2025年4月から列車の運行や駅施設などで使用する全ての電力を再生可能エネルギー由来の電力に置き換える予定となっています。
参考:関西初!阪急・阪神の鉄道全線においてカーボンニュートラル運行を開始(阪急電鉄公式HP)
竹中工務店
竹中工務店では、再生可能エネルギーの導入やCO2排出モニタリングシステムによってカーボンニュートラルに取り組んでいます。
建築現場用の仮設事務所では、断熱性能の向上やLED照明の導入によって約20%のCO2を削減できる見込みです。
参考:CO2削減長期目標達成に向け、全ての作業所でグリーン電力を積極的採用(竹中工務店公式HP)
まとめ|カーボンニュートラルを理解し、豊かな脱炭素社会へ
カーボンニュートラルは実質的な温室効果ガスの排出量をゼロにすることを目指した世界的な取り組みです。カーボンニュートラルの取り組みは、持続可能な世界実現のための地球環境の面からみても、企業活動の面から見ても非常に多くのメリットがあります。
企業がカーボンニュートラルに参画するには国際的イニシアティブに賛同する方法があり、具体的な取り組みとしては再生可能エネルギーの導入、温室効果ガス排出量の把握などが挙げられます。
カーボンニュートラルの実現は簡単な道のりではありませんが、まずはカーボンニュートラルの基礎知識を理解し、豊かな脱炭素社会の実現へ貢献していきましょう。